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枯れた薔薇_カバー1

この世界のイケメンが私に合っていない件1

川辺ヤマ / 著
みずきたつ / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-183-1
本体価格 本体1,200円+税
発売日 2019/01/28
ジャンル フェアリーキスピンク

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内容紹介

《転生美人令嬢×コワモテマッチョな騎士団長、不器用年の差カップルの恋の行方は!?》
異世界転生してモテモテ美人令嬢になったアンネリア。これならイケメンを捕まえ人生イージーモード! と思いきや、この世界のイケメン――中性的王子様タイプがどうにも好みに合いません! そんな時、ばっちり好みのコワモテ騎士団長ヴィンセントとお近づきになれたけど、恋愛初心者ゆえにどうしたらいいか分からない。一方ヴィンセントも、こんな美少女に惚れられた理由が分からずただオロオロ。純情すぎる年の差カップルは無事結ばれるのか!?

立ち読み

見て首をかしげた。
「珍しく壁から離れたかと思ったら、随分切ない顔をしてるわね、アンナ」
「……切ないってわけじゃないわ……でも、そう見えるのかしら」
「ええ。まるで意中の人に振り向いてもらえなくて涙をこらえているみたい。あなた気づいてないかもしれないけど、あなたに声をかけられずに悶々とする男性方がソワソワしていらしてよ?」
「……見ないでおくわ」
 フルーツの香りのする発泡酒をグラスの中でくるくる弄び、はあ、とため息をつく。
 そんな私をこれまたうっとり見つめるキャロルだったが、彼女の言う通り、私は社交界で有名な美少女なので、今日もあちらこちらでいろんな人からお声をかけられた。男性はもちろん女性からも。
 中には好意的ではない、嫌味っぽいものもあったりしたが、まあそれは今まで通り適当にあしらうとして、今回の目的である男漁り(完全に言い方がまずいが)の方が問題だった。
 みんな貴族のご子息や大商人の息子なだけあって、容姿が整っていたり身なりがきちんとしていたりで、マイナスの印象を受けることはなかったのだが、ものの見事に……何ていうか……全員なよっとしているというか……。
 そう。私は失念していたのだ。
 この世界における美男子の定義と、私が望むイケメンのそれとの間には、深い溝があるということを。
 この世界における流行の男性の容姿とは、筋肉の薄い、しなやかな線を描く細い体躯と、女のように綺麗な顔立ちである。
 かたや私の好みといえば、男らしい鋭い目つきだったり、男らしい筋肉に包まれた逞しい体躯だったりと、とにかく男らしさ溢れる男性である。
 筋肉! そう!! 肉体美!!
 完全に前世から引きずっている好みである。
 ボディビルダー並みとまでいかなくていい、鍛錬により生まれし機能性溢れた強靱な筋肉の鎧!!
 厚い胸板に硬い腹筋、強固な二の腕に、生命力迸る大腿筋!!
 思わず縋りついて頰擦りしたくなるような、頼りがいのある男性がタイプなのだ……!!
 前世の私も、ジムだとかスポーツの大会だとかで、磨き上げられた雄々しい筋肉をこれでもかとばかりに晒す男性を陰からニマニマ眺めるのが好きだったし、テレビドラマやアニメ、漫画などにおいても、筋肉が登場する作品を労力を尽くして探し出し、愛でていた。
 二次元も三次元も関係ない。美しい筋肉と美しい顔立ちが揃えば、まさしくそれは神の造りたもうた芸術なのである!
 全く色っぽさのない、血なまぐさい映像だったとしても、そこに惜しげもなく晒された筋肉質な背中があるだけで「ああっ! ごちそうさまです! ありがとう!」と拝み倒していた記憶がある。
 生まれ変わった今だって、たくさんの悪漢に囲まれた際には、私の前に立って片っ端から伸してくれるような、屈強な男性と結婚したい……!!
 そんな私が自分と張り合えるような綺麗な男性を旦那様にしたら……何だか自分磨きへのプレッシャーがすごそうで嫌だし、身に降りかかる困難からしっかり守ってもらえる気もしない。
 ……まあ確かに、体を鍛えることなんか必要ない身分の人々の中に、私の好みの男性がいるわけがない。
 そもそも護衛を連れずにその辺を歩いたりもしないだろうし、悪漢に囲まれたとしても、倒すのは旦那様ではなく護衛の兵士だろう。はあガックリ。
 屈強な男性もいるにはいるが、警備兵やら傭兵という、平民上がりの身分の低い人達ばかり。差別をしたいわけではないが、流石に私の身分的にそこまで差がついてしまうと色々問題が発生しそうだ。
 まあ筋骨隆々な男性、という条件は諦めよう……とも思うけど、私に声をかけてきた男性の中には「もしかしてお化粧してる……?」と思うようなつやっとした唇を持つ男性や、パッチパチのつけまつ毛でバッチリ決めた男性もいらっしゃって、まあ目には楽しいものの完全にタイプじゃない。
 せめて頼りがいは欲しい……!!
 線が細くても仕方ない、文化の違いだしどうしようもない。
 しかし!!
 そういった変わり種を省いて残るのはイマイチぱっとしない感じの男爵子息だったり、第二王子をインスパイアしたような気障っぽい子爵子息だったり。
 何でだよ!! 何で第二王子なんだよ!!
 第一王子の方がまだ誠実そうでいいじゃない!?
 と思うのだが、どうやらスマートに女性を誘えるか否かというのも素敵な男性の条件に含まれるらしい。
 ……そりゃあまあ、度を越しているとはいえ第二王子は女性の扱いに慣れてらっしゃるようでしたし? 身分の高い方を見本にするのはよくあることですよね。
 ええ。実際私も世のレディ達の見本になれるようビシバシ鍛えられてきましたからね。ええ、そりゃあ男性方も第二王子目指してもおかしくないよね。
 ……でも私にとってはアウトなんですよ……!!
 噓くさい賛美も馴れ馴れしい誘い文句も女々しい仕草も全然よろしくありません!
 ちょっとは堅実な方はいらっしゃらないんですか!? 揃いも揃って第二王子の真似しやがって……!!
 そんなわけで現在、こんなのやってられるかとばかりに、キャロルの側でお酒携えてのヤケ酒中である。
 ちなみに、この国の成人は十八歳。私の年齢は十七歳ではあるが、パーティーなんかでは無礼講ということで未成年の飲酒も黙認されている。
「やっぱりいつもの場所で父を待つことにするわ。その方が性に合ってるもの」
「アンナって本当に変わってるわよね。そんなに綺麗なのに、それを鼻にかけたりしないで、いつも端っこで静かにしてるなんて。ほら、ご覧なさいよ、あそこのテサーレなんて、何人も男性を侍らせてるのよ? 美貌も身分もあなたの足元にも及ばないのに、男性にチヤホヤされてるからって、あなたのことを見下してるって噂よ?」
 キャロルの言葉に、ダンスホールの中心でひらひらとスカートをひらめかせている彼女を見る。
 そこにいたのはクリアネイト伯爵令嬢テサーレだった。
 彼女のこぼれてしまいそうなサファイアの瞳が、うるうるキラキラしながら上目遣いで相手の男性をじっと見つめている。
 ピンクのグロスが光る小さな唇が何事かを囁くと、男性はたちまち頰を赤らめていた。どうやら、今夜の彼女のおもちゃが決まったようである。
 ……あんなにあからさまな媚びに気づかないものなのねえ……。
「知ってるわ。さっき挨拶された時も、『これからどこそこのご子息とおしゃべりするんですの』とか『今度何とか伯爵のご子息に絵画鑑賞に誘われておりますの』とか言ってたもの」
「知ってて放置なのね……そういう、興味のない人間には見向きもしない気高いところが憧れられる理由のひとつよね」
 け、気高いって……。
 言いすぎじゃなかろうかと頰が引きつるが、キャロルはうんうんと納得したように頷いているし、弁解も面倒だからまあいいか。
 グラスの中身を飲み干し、空いたそれを使用人に預けてから、キャロルに別れを告げていつもの通りに壁際に寄る。
 手持ち無沙汰になって、ドレスの裾を直したりしながら会場内をくるりと見渡せば、楽しげに会話する男女や、真面目な顔をして話し合いをする紳士方、笑顔の攻防を繰り広げる淑女方が目に入る。
 ……この中の何人が、私のように諦めを感じているのだろうか。
 身分差とか関係なく、好みの男性と恋をするのは簡単なことじゃないって知っていたはずなのに、現実を突きつけられて落ち込むなんて情けないことこの上ない。
 いっそのこと、我儘を貫き通して身分に関係なく好みの男性を探して結婚するとか……。それが出来るほど大らかな性分なら悩まなかったのに。
 大きなため息がもうひとつこぼれる。
 近くの警備兵が不思議そうに私を見たのに気づいて、私もそちらに目をやれば、兵は慌てたように前を向いて姿勢を正して固まってしまった。……顔が赤いけど。
 何だかお酒も入ったし、愚痴りたい気分だ。この警備兵だって、会場の傍らでただ突っ立っているだけでは退屈だろうし、暇つぶしに私の愚痴に付き合ってもらおう。
 そう思って少しだけ側に寄れば、警備兵はますます体をカチンカチンに固めて顔を赤くしてしまった。まあ気にしないけど。
「お仕事中に失礼するわ。あなた、ちょっと私に付き合ってくださらない?」
「へっ!? は、はい!! 何でございましょう!?」
「ねえあなた、婚約者なんていらっしゃる?」
「ふわぁ!?」
 目を白黒させて変な声を出す警備兵だったが、酔っ払った私には関係ない。どんな反応をされようとも、話を聞いてもらえればそれでいいのだ。
「私にもいつか婚約者が出来るのでしょうけどね……あんな、なよなよした頼りない男性に嫁ぐのは不安なことこの上ないと思うの。風が吹いたら飛ばされてしまいそうではなくて? もっと体を鍛えて心身ともに強くあろうとは思わないものなのかしら。貴族や大商人の子息って揃いも揃って同じような見た目だし……代わり映えがしなくてつまらないわよね」
「えっ!? いや……どう、でしょうか……ハハハ……!」
「はあ……ご子息の中に、あんな……騎士団長様のような逞しくて素敵な男性がいらっしゃればいいのに……そう思わなくて? あなた」
 警備兵の返答なんて期待していなかったし、ただの愚痴のつもりだったから、つい……つい口が滑ってしまったのだ。
 騎士団長様とは、今国王の傍らで背筋をすっと伸ばした、屈強という言葉をそのまま人間にしたような男性だ。
 その見た目に違わず、どこかの名の知れた盗賊団を打ち負かしたとか、王族に差し向けられるどこそこからの暗殺者を片手で締め上げて捕まえたとか、地方に陣取っていた強者しか認めぬ蛮族の長を、自らの手腕で黙らせて配下にしてしまったとか、まさしく武勇伝をいくつも持つものすごいお方である。
 確かお年は三十三歳……だったはず。
 前世よりも婚期が早いこの世界だから、とっくの昔にどこかの令嬢を娶ってらっしゃるだろう。
 だから、所帯を持っている男性とどうこうなろうなんて全く思っていなかった私は、単なる雑談の一環としてそう口にしただけなのだ。
「騎士団長様の奥様が羨ましいわ……ね、そう思わない?」
「へ……あの、団長に奥方はいらっしゃいませんが……?」
 だからまさか、彼が独身だなんて、思いもしなかったのだ。

◇◇◇◇◇

「副団長ケイ・ファーガスです。報告書の提出に来たよ」
「ああ、入れ」
 扉を開けて入ってきたのは、飴色の髪が艶やかな、甘いマスクの男、ケイだった。
 ……そう、女性というのはこういう男を見て喜ぶはずなのだ。
 じとりとケイを睨めば、ケイは頰を引きつらせながら笑う。
「何ですかぁ団長。こわーい顔が余計に怖くなってるよ?」
「ん? うむ……」
「何か悩み事でも? そういや、この間スターレイ侯爵に呼び出されたとか言ってましたけど、その件とか?」
「……まあ、その件と言えば、その件だな」
 眉間に皺を寄せてそう言えば、ケイは表情を引き締めて「やばい話だったんですか?」と言う。
 ……何と言えばいいのか。
 俺も未だに信じ難いのだが……あのように直接、しかもあんなに悩ましい表情で言われてしまった以上、事態を呑み込まざるを得ないだろう。
「……実はな、呼び出したのはスターレイ侯爵ではなく、そのまま侯爵令嬢の方だったのだ」
「……ん? え? そうなんですか? ……何でまた?」
「…………そ、それが……彼女が、俺に好意を抱いている、とか……」
「…………」
 案の定ケイの表情が固まり、だんだんと、苦虫を嚙み潰したような顔になる。
「……団長、冗談にしては下手すぎますよ……?」
「……冗談ではない。アンネリア嬢から直接言われた、事実だ」
 俺の言葉を聞いたケイは、その意味を理解しようとしばらく額に手を当てていたが……突然顔を上げてこう言った。
「俺、疲れているようです。幻聴が聞こえます」
「ケイ。お前が現実逃避してどうする。俺こそ夢かと疑っているんだぞ……!! お前だけが頼りだ!! 何かアドバイスをくれ!!」
「無理ですよ前代未聞ですよ……!! 絶世の美女と謳われるあのアンネリア・スターレイが、怯えられまくって半径三メートル以内に女性が近づいてこないヴィンセント・チャニング騎士団長に好意を抱いているなんて、そんなの本人から言われたって信じられないし!! 俺には無理です、諦めて他を当たってください!!」
「当たれるか!!! 相談出来るのはお前しかいない!! 逃げるな馬鹿者!!」
 くるくると犬のように逃げ回るケイを捕まえるため、これまでの鍛錬で鍛え上げてきた全身の筋肉を使って、障害物のある狭い執務室の中を小一時間追いかけっこしたのは……きっと誰にも言えない。


◇◇◇◇◇
「ヴィンセント様……すき、です…」
 その瞬間、彼の目元が今にも泣きそうに歪んで、再び口付けをしてくださる。
 けれど、今度は唇を合わせるだけの可愛いものではなくて、チャニング様︱―いえ、ヴィンセント様の舌が緩みきっていた私の唇をいとも容易く割り開き、いとも簡単に私の舌を絡めとっていく。
「俺もだ……俺も、あなたが好きだ、アンナ……ッ」
 かすれた声が耳をかすめる。胸の奥がぎゅうっと締め付けられ、あまりの嬉しさに目頭が熱くなった。
 好きだと、そう言ってくれた。私のことを。
 本当に? 夢じゃない?
 思わず疑う私だったが、ヴィンセント様の腕に強く抱き締められ息苦しくなったことで、これが現実であることを実感した。
 私の顎を押さえていた手が後頭部に回り、私とヴィンセント様の体がぴったりとくっつく。
 上顎を撫でられ、歯列をなぞっていく舌によって翻弄された私は、喘ぐように呼吸を漏らすばかりで、まともに応えることも出来ぬまま、ふるりと体を震わせた。
「んっ、ふんぅ……ぁ、ん!」
「っああ、アンナ……!」
 キスの合間に、吐息とともに頰を撫でていったその声に、下腹部がきゅんっと切なくなるのを感じる。
 無意識に膝を擦り合わせると、私の腰を抱いたヴィンセント様の手が、宥めるようにそこを擦り上げる。それにすら私の体はピクリと反応した。
「はあっ、んっ……ヴィンセント、さまっ、はっ、私、息が……!」
「……っは、すまない……つい、抑えが……」
 ようやく離れた唇と唇を、とろりとした唾液が繫ぐが、後頭部から戻ってきた手が頰を撫で、なぞるように親指が唇を拭うので、私の頰はなおさら熱を持つ。
 恥ずかしくて顔を背けてしまいたいけど、頰は押さえられたまま。なので視線だけはと目を逸らした。
「……あなたは、俺をこれ以上虜にして、一体どうするおつもりなのです……」
「……え?」
「こんなにも俺の心を捉えて離さないというのに……あなたはずるい方だ、アンネリア嬢……」
「ぁ」
 呼び名が元に戻ってしまって、私は思わず声を出す。
「どうかしましたか?」と、元々近かった顔をより近づけるように覗き込まれて、私は肩をすくめながらも、赤い瞳を見上げて言った。
「ヴィンセント様、先ほどのように、アンナとお呼びくださいませ……」
「……ならアンナ、あなたも、よろしければ俺をヴィンスと」
「……はい、ヴィンス様」
 鋭い瞳が、私の言葉にゆるりと緩んで、甘ったるく微笑む。

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