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落ちこぼれ_カバーオビ4

転生したゲームの世界で崩壊フラグをへし折ります

夏目みや / 著
緒花 / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-178-7
本体価格 本体1,200円+税
発売日 2018/12/27
ジャンル フェアリーキスピュア

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内容紹介

魔王ばりの迫力満点王子様とイタズラ好きな魔族第六王子(子供)に翻弄されて、転生侯爵令嬢は世界を救えるか??
侯爵令嬢のリーサは、初めて出席した舞踏会で第二王子を見て仰天する。イケメンだけど威圧感たっぷりの彼・ルイス王子は、世界を崩壊に導く《破滅の紅蓮王子》じゃないの! ゲームの世界に転生したことを知ったリーサは、破滅回避の糸口を探るため彼に近づくが……「ルイスに友人が! すわ婚約者!」王妃も兄王子も大感激で後押しされるはめに! 次第に彼との距離が縮まり、ルイスから「お前は誰にもやらない。覚悟しておけよ」と言われて!? 「友人から恋人、そして婚約者へとステップアップだったか? で、今の俺たちはどの位置にいるんだ?」

立ち読み

「ね、それよりも、私、気になっていることがあるの」
 ルイスは片眉を上げた。
「王族が魔力を使えるとは聞くけど、実際に見たことがないの。例えば、どんなことができるの?」
 興味津々で聞いてみた。
 だって見たいじゃない。リアルな目で見る魔力とやらを!! わくわくして身を乗り出した。
「例えばね、例えばよ? あの暖炉の中に火を点けることはできるの?」
 部屋の隅に設置されてある暖炉を指さした。ルイスは暖炉と私の顔を交互に見比べる。数秒間の沈黙のあと、彼は指先をパチンと鳴らした。
 すると瞬時に暖炉の中が明るくなり、中に入っていた薪がポッと燃える音を出し、火が点いた。
「おお~~!! すごい、すごい!!」
 思わず感心した声を出し、パチパチと両手を叩いた。
「ね、ね、次は、ベッドの脇にある燭台には火を灯せる?」
 調子に乗った私が次なるお願いをすると、ルイスは事もなげに実行に移した。そしてまた私は、いたく感激した。
「点いたわ!!」
 これは便利な力だと、感心してしまう。
「ねえ、ちょっと見せて」
 とことこと歩いてルイスに近づくと、彼の手を取った。
 大きくて広い手の形は、私と変わりない。その手をしげしげと眺め、疑問を口にした。
「本当、この手のどこから、こんな魔力が出てくるのかしら? 手は熱くないの?」
 真剣な表情で質問した時、ルイスの表情が和らぎ、ふっと綻んだ。
「熱くはない」
「そうよね、火傷してしまったら大変だものね」
 率直な感想を漏らすと、ルイスは肩を揺らして笑った。一方の私は初めて目の当たりにした魔力に、興奮している。
 そしてルイスはまたしても指を鳴らした。
 すると今度は暖炉の中で燃え盛っていた火が一瞬にして消えた。
「えっ!? こんなこともできるの?」
 走って暖炉の側まで近づいた。そして暖炉の中をのぞきこむ。
「消えているわ」
 目の前で見せられた魔力は、まるでマジックのようだ。一瞬にして火が点いたり消えたり。不思議なこと、この上ない。
 ルイスを振り返り、言葉をかける。
「すごいわ。どうやって消したの?」
 するとルイスは、また事もなげに告げた。
「別に、魔力を冷気に変換して、火にぶつけただけだ」
 ルイスは簡単そうに口にするけど、そう簡単ではないはずだ。
「すごい魔力ね、とても便利じゃない。これなら困ることがないわ」
 感心したように口を開けば、ルイスが質問してきた。
「例えば、どんな時だ?」
「なにかあった時、魔力で火をおこせるなんて、助かるじゃない。例えば、無人島に遭難した時とか!! って、この世界でそれはないか」
 一人ツッコミしながらルイスの顔を見ると、彼は軽く目を見開いていた。
 あ、もしかして呆れているのかもしれない。
 だが次の瞬間、予想と反してルイスは、笑みを浮かべた。頰を緩ませる表情を見た時、胸がドクンと高鳴った。いつもはクールなイメージの彼がこんな風に笑うと、優しい雰囲気になる。和やかな空気が流れたと思いながらも、頰が赤くなってくる。
「変わっているな、お前」
 呆れるでもなく微笑みながらそう言うルイスだけど、不思議と腹は立たない。
「そうかしら? だって特別な力だわ」
 こんなにはしゃいでしまうのは、きっと私に前世の記憶があるからだと思う。不思議な力も、純粋にすごいと思ってしまう。今も初めて見た魔力に興奮して、胸が高鳴っているだけ。頰の火照りも、ルイスの笑顔が優しく見えるのも全部、魔力を見たせいよ。動揺している自分にそう言い聞かせながら、平静を取り繕った。
「……てやる」
「え?」
 なにかをつぶやいたルイスに聞き返すと、今度ははっきりと口にした。
「この程度だったら、いつでも見せてやる」
 口調も優しく、微笑みながら私を真っ直ぐに見つめて言うので、さらに動揺する。
 視線をさまよわせた私に、ルイスはくすりと笑うと、再び指をパチンと鳴らした。
 その瞬間、天から白いなにかが降ってきた。
 そっと両手を伸ばして受け止めると、手のひらの中で一瞬にして消えた。冷たいと感じたあと、ハッと気づいた。
「これは雪……?」
 雪の結晶が、手の平に音もなく降り注ぐ。
「素敵……」
 驚きのあまり、言葉が続かない。ただ黙って、すぐに消えゆく雪の結晶を、感動しながら眺めていた。
 視線を感じて顔を上げると、ルイスと目が合った。
 口の端を少しだけ上げ、微笑んでいるようにも見えた。
 ルイスはわざわざ私に見せてくれたの? 私があまりにもはしゃいで喜ぶから?
 そしてしばし見つめ合った。
 ルイスは机上に飾られていた花瓶の中から、一番綺麗な、一輪の薔薇を取り出した。そしてその薄桃色の薔薇に軽く手をかざすと、一瞬にして薔薇が固まった。
 美しさをそのまま保持して形を保つ薔薇は、プリザーブドフラワーのようだ。
 ルイスは薔薇を手にして、私に近づいてきた。
 そしてそっと私の髪に触れる。肩がビクンと揺れてしまったけれど、そのまま動けずにルイスを見つめる。
 ルイスは私の髪を耳にかけると、薔薇を髪飾りとして耳に挿した。
「ルイス……」
 ドキドキしてギュッと拳を握った私を見て、彼は満足そうに微笑んだ。
「花が好きだと言っていただろう?」
 普段の何気ない会話だったのに、覚えててくれたんだ。
 そう思うと胸の奥が熱くなった。
「あ、ありがとう」
 声をうわずらせつつも、表面上は平静を装った。
「とても綺麗だ」
 それはこの薔薇のことを言っているの? まさか私のこと?
 特に普段と変わった様子の見られないルイスだけど、一方の私は心臓が早鐘を打ち、明らかに動揺している。
 これってルイスが、私に魔法をかけたの? だから、こんなにも顔が熱くなるの?
 そわそわして手の置きどころがわからずに、握ったり閉じたりを繰り返した。
 ややうつむいているとルイスが静かに小さく微笑んだのがわかった。彼は指を伸ばし、そっと私の頰をひと撫でした。
 顔を上げるとルイスと目が合った。とても柔らかな優しい瞳を私に向けている。
 胸のドキドキが聞こえやしないかしら? 頰の赤みを指摘されたらどうしよう。
 そう思うのだけど、なぜか目を離せなくなる。
「い、いろいろ見せてくれてありがとう。また見せてね」
 しどろもどろになりながら口を開くと、ルイスは目元を緩ませてフッと笑った。
 優しく微笑むルイスを見ていると、無性に恥ずかしくなり、この場を漂う甘い雰囲気に混乱してしまう。
 同時に、一つの疑問が湧きあがる。
 前世のゲームの中ではバッドエンドになるとルイスが魔力で世界をぶっ飛ばす設定だったけれど、本当にルイスがやったのかしら。確かに初対面では怖くて、ルイスが世界を滅ぼす張本人だと感じたけれど、本当のところはどうなんだろう。ここ数日間、一緒にいて思ったのだけど、意味もなくそんなことをする人ではないと思う。
 だとすれば理由があるはずだ。なにか彼がこの世界を滅ぼすような大きな原因が。
 原因となる出来事はなんだろう。やはり魔族と関係あるのかしら?
 引き続き、ルイスとは距離を縮めていくとして、原因を探ろう。
 そう心に誓いながら、大きくうなずいた。

 本日分の仕事が終わり、ルイスの部屋から出た。屋敷に戻ろうと思いながら、城の中を歩いていると、前方から歩いて来た人物が視界に入る。アッと思い、廊下の端に寄り、軽く頭を下げる。
 相手も私に気づいたようで、片眉を上げた。
「今日もご苦労さま。どう? 順調?」
 そこにいたのはセシル様だった。いつものようにキッチリとした服装に身を包んだセシル様は、優しげに微笑んだ。
「はい、おかげさまで、毎日たくさんの仕事がありますが、なんとかこなしています」
 返答すると、セシル様はクスリと笑った。
「僕が聞きたいのは、そっちじゃなくてね」
 含み笑いをするセシル様の真意がわからず、目を瞬かせた。するとセシル様は、はっきりと口にした。
「弟とはどうかな? うまくやっている?」
 意気込んで聞いてくるセシル様の目は輝いている。
 なるほど、そっちの方か。
 うまくやっていけてるかどうかはわからないけれど、気まずいわけでもない。言うなれば普通だと思う。言葉を選びながら返答する。
「普段通りだと思います」
「本当に?」
「ええ」
 セシル様は顔をぐっと近づけてきた。私の顔をのぞきこむようなその姿勢は、本音を探っているようにも見えた。
「ルイスは扱いが難しいと思うけど、大丈夫? 困ったことはない?」
「ええと……」
 言いよどむ私に、セシル様がぐいぐいと迫ってくる。
 ルイスもそうだし、兄弟揃って勘がいいのかもしれない。ならば、正直に告げることにした。
「最初は怖い印象でしたが、今はそれだけじゃないとわかったので大丈夫です」
 するとセシル様は最初、目を丸くした。そして次に私の両手を取り、ギューッと握りしめる。
「どういうこと!? もっと聞かせて欲しいな」
 瞳をきらきらと輝かせ、話してくれるまで離さないと言わんばかりのセシル様に、若干驚きつつも、口を開いた。
「いえ、あの、私が頼むと魔力を見せてくれたりして……」
「見せた!? ルイスが自分から?」
 私の両手を強く握りしめたまま棒立ちになり、驚いた声を出した。
「私が魔力を見たことがないと言ったら、暖炉の火を点けてくださいました」
 説明するとセシル様は何度もうなずいた。
「驚いただろう? 弟の力は王族の中でもずば抜けている」
 はしゃいだ様子を見せるセシル様だけど、自慢の弟なのだろうな。自分のことのように嬉しそうに語り出す。
「それこそルイスが本気を出したら、僕とは比べものにならない」
 いや、その本気を出されたら困るんですけどね。というより、本気を出して世界を破滅へと導いてしまったら困るので、阻止する方法を探しているのです――なんて言えないから黙っていると、セシル様は私の両手を解放した。
「だが驚いたな。ルイスは人に魔力を見せることを嫌うんだ。それこそ、強すぎる魔力だし、人々から畏怖の念をもって見られているのも感じているから。だけど君には自分から見せたんだね」
 まるで安堵したかのように微笑んだセシル様。
 ああ、セシル様はルイスのことが心配なんだろうな。たった一人の弟なのだから。
「優しい一面もあると知ったので、今はもう怖くありません」
 正直に気持ちを伝えると、セシル様もハッと弾かれたように瞳を見開いた。
「ありがとう」
 お礼を言われることなどないと思いつつもうなずく私に、セシル様は嬉々として続けた。
「人づきあいが得意でないルイスを心配してしまって、ついね。ルイスも子供じゃないと思っていても、どうしても口を挟んでしまうんだよね」
 恥ずかしそうにぼやいたセシル様だけど、そんなに想ってもらえるルイスは幸せ者だと思う。
「初めて出会った舞踏会で、リーサはルイスと見つめ合っていただろう?」
 それは、ゲーム内で出会っていたことを思い出しメラメラと闘志を燃やしていた時のことを言っているのだと、すぐに思い至った。
「ルイスと目を合わせられる令嬢がいたことに驚いたんだ。それに素敵な方だと、褒めてくれただろう? 今までルイスは令嬢たちから怖がられる存在だったから、そんなことなどなかったんだ。目を合わせ、なおかつジッと見つめ合う二人の姿を見て、僕の直感が働いたんだよ。君ならルイスにいい刺激を与えてくれるんじゃないかと。自分の直感を信じて、君を弟に紹介したんだ」
 苦笑するセシル様は急に横を向き、後ろに視線を投げた。
「だけど一番、ルイスを心配しているのは、あの人」
 つられてセシル様の視線の先を見ると、壁に身を隠すようにしている、だがちっとも隠れていない王妃様が、こちらの様子を窺っていた。しかもまたハンカチを片手に、涙目になっている。
 王妃様は私たちに気づかれたことを悟ると、美しい髪を揺らしながらこちらに向かって近づいてきた。
「ごめんなさいね、ルイスの名前が聞こえたから、つい聞き入ってしまったの。ああ、だけど、あの子のことを理解してくれる人が現れるなんて……!!」
 王妃様は、どうやら感激の涙らしい。
「こうしてはいられないわ!! ルイスの婚約祝いパーティを開かなくては!!」
 ブフォッ!!
 その婚約者とは、私のことじゃないですよね?
 噴き出しそうになった私を見て、セシル様がやんわりと止めに入る。
「母上、気が早いです」
「あら、そうね、私ったら、ごめんなさい。あまりにも嬉しくて、ついはしゃいじゃったわ」
 我に返った王妃様は口に手を当て、私と向き合った。私は頰をひきつらせながらも、苦笑いする。
 婚約するなんて気が早いでしょうが!! そもそも当人同士の気持ちをかっ飛ばしすぎだと思う。
「婚約パーティはまだ先として、舞踏会など、どうでしょう? ルイスがリーサをエスコートして、皆に二人の仲をお披露目するんだ」
「あら、それもいいわね」
 ん? セシル様の出した案にノリノリで返事をする王妃様。そもそも、本人を前にして、いろいろ策略を練るのはやめてもらえませんか?
「あの……」
 思い切って口を開けば、王妃様とセシル様が二人してこっちを見るものだから、言い出しにくくなる。
「大丈夫よ、なにも緊張することなんてないわ。ルイスがエスコートするから、側についていて」
「は、はぁ……」
 王妃様に諭されて、断れる人などいるものか。私は力なく返事をした。
「ああ、初めて見ることができるかもしれない。ルイスが女性と踊っている姿なんて、見られる日が来ると思わなかったわ。令嬢たちはルイスを怖がって近づかないし、ルイスも近寄るなオーラを放っているし。リーサさんがルイスと接しているのを見たら、皆も安心してくれるかもしれないわ。ルイスもそう怖くないって」
 王妃様は胸の前で両手を組み、瞳を潤ませながら、身もだえしている。
 王妃様は、母として、我が子が人と距離を取っていることが、心配なのだろうな。当の本人は気にしていない風でも、気になるのが母親なのだろうと思った。
「そうと決まったら、忙しくなるわね。今から舞踏会の開催をお願いしてくるわ」
 そのお願いをする相手とは、国王なのだろうなー。わー、スケールが違うなー。
 私抜きで進む話を、もはや遠い目をして聞くしかなかった。


◇◇◇◇◇◇


 ステップを踏むたびに、彼の髪がサラサラと揺れる。長い手足、厚く逞しい胸板に、見上げるほどに高い身長。そして端整な顔立ち。
 出会った当初は、目つきが鋭いと思ったけれど、最近では幾分柔らかくなった気がする。
 私の気のせいかな? それとも慣れたのかな?
 踊りながらもそっと周囲に視線を向けると、令嬢たちが食い入るように見つめている。
 だがその視線の先は決して私じゃない。ルイスだ。
 だってルイスはこんなにも素敵なのですもの。目が離せないのも、無理はないわ。
「ルイスは絵本に出てくる王子様みたいね」
 思ったことをポロッと口にする。
 そう、絵本に出てくるのは白馬に乗った王子様。貴族の女性の憧れの存在。
 ルイスが一瞬、首を傾げたので、私は続ける。
「よく絵本に出てくるじゃない? 皆が憧れる王子様のことよ。女性なら、自分のたった一人の王子様を見つけなさいと、幼い頃に母に言われたわ」
 母は幼い私に絵本を読み聞かせながら、よく言っていた。『誰にでも王子様はいるから、リーサも素敵な人を見つけてね』と。なんとなく、当時のことを思い出す。
「お前は?」
「え?」
 唐突にルイスに聞かれて、思わず聞き返した。
「お前も探しているのか、王子様を? それとも、もう見つけたのか?」
「私?」
 自分のことを聞かれてキョトンとしていると、ルイスは続けた。
「今、踊っているお前を羨望の眼差しで見ている男は大勢いるぞ。それこそ、自分のものにしたいと思う輩もいるだろう。だからほら、こんなにも注目を浴びている」
「え、それは私じゃなく、あなたじゃなくて?」
 ルイスが踊ることが珍しいからじゃないの? そう思ったが、ルイスは静かに首を横に振った。そして握った手にギュッと力を込めた。
「だがな、誰にもやらない」
 ルイスの眼差しは真っ直ぐに私に向けられている。
 いつもはクールに思える視線も、今は熱を帯びているようで、強い意志を感じる。
 情熱的にさえ感じられ、射抜かれてクラクラしてしまう。
「だからな、覚悟しておけよ」
「えっ」
 ニヤリと笑ったルイスに思わず聞き返すが、彼はその先の言葉は紡がなかった。
 今のって、口説かれたの? それとも冗談?
 どちらかわからず、視線をさまよわせてしまう。
 でも体の芯から熱くなって、どうしても意識してしまう。ギュッと握られた手から感じる熱が恥ずかしくて、でも守られている感覚が心地好い。
「笑っているわ、ルイス様が」
「本当、あんなに楽しそうな顔をなさるなんて……。初めて見たわ、素敵ね」
 頰を染めてルイスに見とれている貴族の令嬢たちがささやき合う声が、ばっちり聞こえた。
 スロー、ステップ、ターン。幼い頃から練習した通りに音楽に合わせて足を動かした。段々と楽しくなって、最後は笑顔になって踊り終えた。
 踊り終えると、王妃様が立ち上がり、手を叩きながら涙している。
 ああ、王妃様は、よほど嬉しいんだ。ルイスが人並みにダンスを踊っている姿を見ることができただけで、こんなにも感激している。
 踊り終えて一息ついていると、一人の男性が近づいてきた。
「素晴らしい踊りでした、ルイス王子」
 拍手しながら褒め称えた男性は、カールソン侯爵と名乗った。カールソン侯爵はそのままルイスと世間話を始めた。
「ところで街では最近、魔族に対する不安が高まっているようですな。なんでも第六王子が怪しい動きを見せているとか」
「街で?」
 ルイスの眉がピクリと反応した。
「あ、いや、なに、噂ですよ。今現在、魔族との均衡は取れていますし、それになにより、ルイス王子がいらっしゃるから、我が国は安泰ですしな。いざとなれば、ルイス王子の類まれなる魔力で、魔族の第六王子など一撃ですよ」
 おい、そこぉぉぉ!! なに、いらんこと言っちゃってくれるんですか!!
 下手にルイスをけしかけてくれるな!!
 それまでせっかくいい気分でいたのに、一気に目が覚めた。
 不機嫌な視線を送っていたら、相手も気づいたようだ。
「ああ、これは綺麗な女性を不安にさせましたかな。でも、ご安心あれ。我が国のルイス王子は、いざとなれば、魔族を一掃させるほどの力をお持ちですので」
 だから、それが怖いんじゃ――!! 余計に私の不安をあおっているということを、カールソン侯爵は知らないだろう。
「カールソン侯爵」
「はい」
 ふと、ルイスがその名を呼ぶと、相手は姿勢を正した。わずかだが空気に緊張が走る。
「俺は力でねじ伏せるやり方が一番だとは思わない。そもそも、そんな噂をうのみにして、魔族と敵対するつもりはない」
 ピシャリとはねつけるようなルイスの言葉を聞き、カールソン侯爵はバツの悪そうな表情を見せた。
「これは、出過ぎたことを申しました」
 謝罪するカールソン侯爵に向かい、ルイスが言った。
「そろそろ平和条約の更新の時期だが、我々としてもこの条約を長きにわたって継続していきたいと思っている。無用な血は流さないに越したことはない」
 ルイスの声は低く、それでいて強い意思を含んでいると感じた。ルイスはカールソン侯爵を尻目に、その場から離れた。
 ルイスは好んで争いをするタイプではないし、力で魔族を抑え込もうとは思っていない。
 そのことを示すルイスの返答を聞き、安心した。
「ねえ、街で噂されているって、本当なのかしら?」
 私はたまらず聞いてみる。
「知らん。ただの噂だろう」
「でも、噂が流れるってことは、なにか根拠があって不安になっているんじゃない?」
 そうよ、私たちの知らないところで、魔族との小競り合いが始まった挙句、ルイスが戦いに駆り出されて、いきなり世界がバーンと崩壊したら困るわ。
 顔を上げ、ルイスに提案する。
「街へ行ってみましょうよ。街でなにが起きているのか、知りたい。人々の暮らしに耳を傾けるべきよ」
 ルイスとその第六王子とやらとの接近は避けたい。だから、街にいる魔族の動向を探るべし!!
「そうよ、それこそフラグがあるなら回収しに行かなければ!!」
「ふらぐ?」
 思わず叫んだ私を見て、不審そうな顔を見せたルイスに慌てた。いっけない、私ってば。思わず心の声が表に出ていたわ。


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