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婚約破棄_カバー1

婚約破棄が目標です!

夏目みや / 著
涼河マコト / イラスト
ISBNコード 978-4-908757-42-6
本体価格 本体1,200円+税
発売日 2016/11/27
フェアリーキスピュア

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内容紹介

あなたとの婚約はかりそめのハズなんですけど!?
深窓の図太い令嬢として生まれ変わったからには、期間限定の偽りの婚約も見事婚約破棄に持ち込んでみせます!?
転生したことに気づいて、深窓の図太い令嬢として目覚めた侯爵令嬢の私、セレンスティア。頼りになる侍女と、ツンデレシスコンな兄に支えられて、タラシな許婚の浮気現場を押さえ晴れて自由の身となったのに、次は社交界一の美形アルベルトから縁談を持ちかけられてしまった! 期間限定の偽りの婚約と言われ、ほっとしたのも束の間アルベルトがやたらと私に絡んでくるのはどういうこと!? 熱っぽい瞳で見つめキスをして「俺はこの婚約を本当にしても構わない」だなんて、最初と話が違って困ります!?

立ち読み

「あら、セレンスティア様じゃない」
 その時、背後からかけられた声に、思わず肩を震わせた。聞き覚えのある声に、嫌な予感しかしなかったからだ。
 だがここで無視をするわけにはいかないと、内心ため息をつきつつも、振り返る。
「ごきげんよう。お久しぶりね」
 内心、うげぇと吐きそうになりつつも、堪えて笑顔を向けた。
 そこにいたのはリンディの取り巻き二人だった。
「セレンスティア様、ご婚約が決まったのでしょう?」
 言わば仮の状態だけどね!
 だけど、それは言わずに微笑むだけ。余計なことを言うなかれ。面倒事はごめんだ。
「それもアルベルト様だなんて、いつからお近づきになられたの?」
 質問にも返答せず、微笑みを浮かべ、小首を傾げるだけの反応を見せる。
「そうそう。だけどお気をつけて? 良くない噂を耳にしましたの」
 良くない噂? なんだろうと思いつつも、微笑みを続行中。
「セレンスティア様が、フェアラート様とご婚約中に、アルベルト様に乗り換えた、って噂されているわ」
 ほっほうー。思わず笑顔が引きつるわ。グラスを持つ手に、自然と力が入ってしまう。
 だけど、ここは我慢。騒いでも何の解決にもならない。
「そう、どうやって上手く取り入ったのか、その方法を教えて欲しいとの評判ですわよ」
 言葉の裏を解釈すると、
『フェアラート様と婚約破棄してすぐに、アルベルト様と婚約だなんて、どういうこと? なんで、あなたが上玉を捕まえているのよ!? 悔しくてたまらない!!』
 と、まあそういうことだ。回りくどいったら、ありゃしない。
 ため息をつきたくなるが、ぐっと堪えた。その代わり、手に持つグラスを一気に飲み干した。
「それとも、なにかアルベルト様の弱みでも握っているのではなくて?」
 いぶかしむように聞いてくるが、あるなら握ってみたいわ。そしてそれを彼に突き付けてみたい。
「弱みだなんて――」
 怒りゲージにそろそろ限界を感じて反論しようとすれば、背後から肩に力がかけられた。
「――誤解だな」
 低い声が耳元をかすめた。
「アルベルト様!?」
 彼女達の目の色が、瞬時に変わる。
「俺が好きで、彼女を口説き、やっと手に入れることができたんだ。先日の婚約破棄の件は、相手と縁がなかったのだろう」
 背後から腰に手が回されて、背中に熱を感じる。すっぽりと覆い被さられた姿勢になり、息が止まりそうなほど驚く。
 私を包み込む温かな体温に、躍動感のある爽やかさと官能的な甘めのムスクがブレンドされた彼の香水。思わず息を呑んでしまうと、それに気づいた彼が、腰に回した手にギュッと力を込めた。
「もっとも、そんな縁を断ち切って、俺のもとに来てくれたのだから、神に感謝したが」
 私の頭上から声を発する彼だけど、すごいわ。よくそんなに口から出まかせが出てくるものだと、感心してしまう。
「ま、まぁ……。アルベルト様のお心を摑むだなんて、本当にセレンスティア様が羨ましいですわ」
「本当にそうですわね」
 本人が登場したことで、タジタジになった女性二人。そこでアルベルトは追い打ちをかけた。
「だが困ったことに、愛しの婚約者は極度のあがり症なんだ。人と接する時に失敗をしてしまうかもしれない。そこは友人としてフォローしてやってくれないか?」
「私達が、ですか?」
「ああ、君たちのように美しく、教養も兼ね備えている友人がいれば、俺は安心だ」
 褒められてまんざらでもなさそうに頬を染める二人を前に、彼が背後に視線を投げたのがわかった。
「そんな君たちに、俺の大事な友人を紹介したい。キースもいい年齢なのだが、忙しくて、なかなか夜会に出席できないと嘆いていたのでね」
 その名を出した瞬間、女性二人が色めきだった。
「キース様!?」
「失礼ですけど、キース様って、あのブルーンズ家のキース様ですか?」
 アルベルトはにっこりと優しげな微笑みを浮かべる。
「ああ、広間の右の扉近くにいるはずだが……」
「失礼しますわ、アルベルト様!」
 そう言った途端、我先にとばかりに、二人は早足で駆け出した。
 私は一連の出来事を、やや放心して眺めていた。
「なんていう、変わり身の速さ……」
 彼女達は、つい先日まで、『アルベルト様、アルベルト様』とキャアキャア騒いでいたはずだ。それが今では手のひらを返したような態度だ。
「それも俺にとっては好都合だ。いつまでも張り付いていられては、逆に迷惑だろう」
 そうだった、この人は、あの手の女性達から解放されるため、私と婚約したのだ。
「それにしても……」
 顔を上げ、私の頭上から見下ろす彼の瞳を見つめる。
「口が上手いわね。私は切り返しが下手なのよね。せっかくだから、あなたの側にいる間に、その機転と口の上手さを見習って勉強しておくわ」
「……なぜだろうか、褒められている気がしないのだが」
「あら、褒めているのよ! 人の称賛は素直に受け取るものよ!!」
 そう言ったあと、彼と目が合った。そこでどちらともなく、声を出して笑った。
 アルベルトは私が困っていると察して、助けてくれたのだ。ちゃんと私のことを見ていてくれたのだ。そして今後も絡まれないようにと、フォローも忘れなかった。案外、気が利く人だ。
 もしかすると彼は、私が思っていたより、優しい人なのかもしれない。
「ちょっ……! そういえば、いつまでこの体勢なの!?」
 腰にギュッと手が回されたままだったので、慌てた。
「別にいいだろう」
「良くない、良くない!!」
 そう言うと、彼はようやく私を解放する。今さらながら、緊張して汗をかいてきた。体中のいたるところから、汁が出てくる気がする。顔が火照って熱い。いや、体全体の間違いだ。
「な、なんだか疲れたわ」
 そう言った私の顔をじっと見つめたアルベルトは、次に手を出し、私の額に添えた。
「……熱いな。もしや熱でもあるのか? 先程より、顔が赤い」
「え……? そう言われてみれば、体が熱いけど」
 それに頭がクラクラして、ポワーンとしてしまう。どこか夢心地。
 だけど不思議に、気分は悪くない。むしろ楽しくなってきた。
 意味もなくへらへらと笑う私をじっと見つめるアルベルトは、しばらく考え込んだあと、口を開いた。
「水を飲んだのか?」
「ええ、いただいたわ。ジュースも飲んだわ。果実の甘みに加えて、ほんのり苦みもあって、美味しかったわ」
 テーブルに近寄ったアルベルトは、グラスの一つを手にとると口をつけた。
「……これはジュースではなく、酒が入っている」
「は!?」
 言われてみて、どことなく納得した。そっか、間違えて酒を飲んでしまったのか……。
「大丈夫!! 意外に美味しかった!!」
 このぐらいは問題ないはず。それにこの世界では、私だってお酒を飲んでもいい年齢なはずだ。
「大丈夫、大丈夫よ……っと、わっ!」
 身振り手振りで平気なことをアピールしていると、足がもつれてガクッときた。
 だが、倒れることはなかった。なぜならアルベルトが険しい面持ちで、私の腕を摑んでいたからだ。
「なにをしているんだ、まったく」
「でも、大丈夫よ」
「どの口が言うか! そのおぼつかない足取りで!!」
 腕を捕まれたままでいると、アルベルトは舌打ちをしたようだった。
「ちょっと来い」
 そう言うや否や、私を引き連れて、いや、正確には引きずって広間の外へと出ていった。
 やがて私達は庭園に下り立ち、風を浴びる。しばらく歩き、噴水の側まで来た。
「ここでその赤い顔を冷やせ」
 冷たい風は、確かに心地よい。ふわふわする体をどうにかしようと、噴水のふちへと腰をかけた。
改めて一息つくと、側に立つ彼の顔を見上げた。
「しかし、あなたも嘘がお上手ね」
「嘘? ――ああ」
『俺が好きで、彼女を口説き、やっと手に入れることができたんだ』
 不意に頭に浮かんだ台詞に、頬が赤くなる。意識しているようで、恥ずかしい。
「人は憶測で物を言い、いつしかそれが噂となり、独り歩きを始めるからな。はっきりと宣言しておいた方がいいだろう」
「確かに人って、噂話が好きよね」
 特に女性が数人集まれば、噂話に花が咲く。
「でも大丈夫よ。その噂もすぐに飽きて、忘れちゃうわ」
 微笑んでうなずいたあと、無言のアルベルトに続けた。
「ええ、そうよ。噂話も長くは続かないわ。次の話題に目が移るわよ。私がフェアラートと婚約解消した話はもちろん、あなたと婚約したことですら、いつかは話題にも上らなくなるわ」
 次の話題が出るまでの辛抱だ。
「ああ、だけど、また婚約解消した時には、噂になるわね」
 肩をすくめて笑うと、頭上から声が聞こえた。
「――俺はこの婚約を、本当にしても構わない」
「え?」
 驚いて顔を上げると、アルベルトは私の隣に腰かけた。
 頬杖をつき、私を横目で見る彼に、驚いて心臓が止まるかと思った。
「な、なに言って……」
「二度言わせたいのか?」
 彼が口端を上げ、クッと笑う。
「本当にしても構わないと言った」
 驚いて言葉が出ずに、私は瞬きを繰り返した。
「そんな顔をされるとは、俺としても心外だ」
「だって……」
 呆れたように肩をすくめるこの人は、いつものようにからかっているの? それとも本心なの? ただの酔っぱらい相手に、楽しい冗談? 私の動揺を楽しんでいる?
「………」
 ずっと無言でいると、ため息が聞こえた。
「酔っているな。……この酔っぱらいめ」
 そう言った彼は手を伸ばすと、私の額を指で軽くはじいた。

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