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枯れた薔薇を包んで潰す

樹下青虫 / 著
秋月ルコ / イラスト
ISBNコード 978-4-86457-284-2
サイズ 四六判
ページ数 336ページ
定価 1,320円(税込)
発売日 2016/02/29
発売 ジュリアンパブリッシング

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内容紹介

「ムーンライトノベルズ」の大人気作が3年の沈黙を破ってついに書籍化!
何度でも教え込もう、貴方の体に、貴方が誰のものかということを…。
シスレー伯爵令嬢であるヒルダは知っている。自分が平民の娘であることを。
そのことを知らない誇り高い弟ヴィンセントの愛を受け溺れながらも、いずれ真実が暴かれ、嫌われ、運命が二人を割いてしまうことも。ヴィンセントと結ばれることは叶わない、それならば…。
決断したヒルダは開けてはいけない扉を開くーー。
許されない恋だから、優しくなんてできない。
「俺がそんな願いを聞くと、本当に? 馬鹿な姉さん。俺は絶対に諦めない」

立ち読み

「フレッド様?」
 彼は笑みを浮かべたヒルダへ、眼を吸い付くように注いでくる。
 胸がざわめき、ヒルダは彼から自身の手を取り返そうとした。
 しかし、彼は手放すどころか、ぎゅ、と逃げられないように握り込む。
「……貴方はやはり美しい。ヴィンセントが執着するのも分かります。昔お会いした時も、僕は貴方を美しい方だと思った。貴方はヴィンセントの姉らしく、所作の隅々まで美しい、完璧なレディだった。僕たちの間で、貴方は女神と呼ばれていたのです。あのヴィンセントが心酔する姉君が人間のはずがないと。お会いして、その通りだと思った」
 ヒルダの手を捕らえる、フレッドのそれに力が籠もる。
「誰よりも貴方は魅力的だ。労働階級に身を落としてもそれは変わらない、男なら、誰もが貴方を欲しいと思う……。レディ・ヒルダ。なぜ市井に降りることになったのか、どうしても教えては頂けませんか。僕は貴方の力になりたい。貴方は優秀なガヴァネスですが、このままでは辛い目に合うことが目に見えています。僕にはそれを看過出来ない」
 彼が何を言おうとしているか、ヒルダは瞬時に悟った。屋敷に閉じこもっていたヒルダであれば察することが出来ず、彼が決定的な一言を口にするのを、馬鹿正直に待っていたかも知れない。
「いけません」
 捕まれた手を無理矢理に引き抜き、ヒルダは無礼を承知で扉へ逃げた。跪いていたことが徒になり、フレッドはヒルダを追えない。
「待って下さい、レディ・ヒルダ!」
「いいえ、わたしはミスです、フレッド様」
「どちらでも構わない。僕は……僕は貴方を愛している!」


◇ ◇ ◇ ◇


 青ざめるヒルダの顔を胸に押し付け、ヴィンセントは庭を早足で抜ける。
 何とかしてヴィンセントの誤解を解かなければならないのに、声を出すことが出来ない。あまりのもどかしさに、時間の流れが拷問じみた長さに感じられた。
 ようやくヒルダが拘束から解放されたのは、ヴィンセントの使う馬車の中だった。
「ヴィ……んっ」
 椅子に下ろしたヒルダの肩を強い力で押さえ付け、ヴィンセントは貪るように唇を重ねた。
 名前を呼ぼうと開かれた唇に舌を差し入れ、小さな舌を根元から舐る。
「ちが、違うの、ヴィンセント」
「違う? 貴方の言うことは間違いじゃないよ。幼い俺に、家族は姉さん一人だった。領地へろくに戻らない父親、気の触れた母親、母親に怯える使用人。大事なのは貴方だけだ」
 顎に手をかけて口を大きく開かせ、ヴィンセントは奥へ奥へと舌を差し込んだ。快感など二の次の、ヒルダを侵すことが目的の荒々しい口付けに、ヒルダの体は怯えたように縮こまる。
「ん、んん」
「でも、姉さんは違っていたよね? 俺が目を離すと、貴方は直ぐに使用人の側へ寄っていた。俺を置いて」
 ヴィンセントが姉を探すと、彼女は隠れて使用人の様子を窺っていることがよくあった。彼等を一心に見つめるヒルダは、ヴィンセントの姿に気付かない。
「見て、いたの」
「ずっと見ていたよ。そうじゃなきゃ、姉さんを探せない」
 質素なドレスの襟元を寛げ、コルセットで盛り上がった胸を晒す。
 膨らみにぴたりと耳を押し付けると早鐘のような心臓の音が聞こえ、ヒルダが怯えていることが分かる。
 可哀相なヒルダ。そう思うけれど、ヴィンセントは自分の中で暴れ回る凶悪な感情を抑えることが出来なかった。
「探すのはいつも俺だ」
 ヴィンセントの手がヒルダの足を掴む。
 座面に押し付けた体の上に細い足を折りたたみ、邪魔な距離をさらに詰める。
「待って、ヴィンセント。話を、話を聞いて……!」
「どんな話をするというの。哀れな男の話を、もっと聞きたい? 貴方は俺が見つけるのを待っているんだと、愚かにも勘違いしたヴィンセントの話を?」
「違う。ちが、あぁっ」
「貴方は俺を置いていくだけだ」

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