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悪役令嬢になりたくないので、王子様と一緒に完璧令嬢を目指します!2

月神サキ / 著
雲屋ゆきお / イラスト
ISBNコード 978-4-86669-223-4
定価 1,320円(税込)
発売日 2019/08/27
ジャンル フェアリーキスピュア

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内容紹介

王家に嫁ぐ条件をクリアしなければ、婚約破棄!?
完璧令嬢を目指して頑張る公爵令嬢と溺愛(ちょっと腹黒?)王子の異色悪役令嬢ラブコメディ、待望の続刊!
念願叶って第一王子アルとめでたく婚約したリリ。王家に嫁ぐ条件である精霊契約の儀式に挑むが、なぜか失敗してしまう。その上、親友のクロエが《攻略キャラ》を射止める《ゲームヒロイン》であるらしい!? 激しく動揺するが——「僕は君が好きなんだ。これくらいのことで諦めたりなんてしないよ」アルの励ましに奮起する! 悪役令嬢と言われていた頃になんて絶対に戻りたくない! 原因を探ろうとするなか、事態はさらなる波乱を呼んで……。

立ち読み

「アル、お待たせしました」
 会場に戻ると、アルが入り口付近の壁にもたれて、私のことを待っていた。そうしていると、まるで名のある職人が身命を賭して作り上げた彫像のように見えてしまう。奇跡のバランスで成り立っている芸術品と言われても納得できる美しさ。彼は目を閉じていたが、艶のある黒髪が表情を隠し、何とも言えない色気を醸し出していた。
 腕を組み、目を閉じていた彼は、私の視線に気づいたのかすっと瞳を開け、私を見つめる。途端、奇跡の彫像は生き生きとした美しい生き物へと変貌を遂げた。その一瞬の変化に、思わず見惚れてしまう。
「ああ、お帰り。カーライル嬢は無事、馬車に乗れた?」
「はい、おかげさまで。その……ウィルフレッド殿下ですが、先ほどは驚きました」
 アルの少し低い声は、耳に心地よい。その声に甘い柔らかさが含まれていることに気づき、?を緩めた。私にだけ向けてくれている声音。それを素直に受け取ることができるのが幸せで堪らない。
「ああ、あの猫かぶりでしょう? ウィルは昔からああいうのが得意なんだ」
「そうなんですね」
「意外だった?」
「……はい」
 素直に返事をすると、アルは意味ありげに笑った。そんな仕草すら文句なく格好良いのだから、アルはずるいなと思ってしまう。
「あいつも、ローズブレイド王国の王子だってことだよ。うちの家系には腹黒い性格の者が多くてね」
「腹黒い、ですか?」
 何を言い出すのかとアルを見つめる。彼はさらりと自らの前髪を?き上げた。
「そう。ちなみに腹黒さで言えば、ウィルよりは僕の方が上だと思うよ」
「アルが? まさか……」
 いつだって私に対して誠実なアルが腹黒いなど——と考えたところで、わりとポイントポイントで、怖い人かもしれないと感じたことを思い出した。
「……」
 黙っていると、アルは意地悪い顔をした。
「あ、思い当たる節があるって顔だね。でも、今更後悔しても遅いよ? 僕は、もう離してあげないって言ったし、それに君は『はい』って頷いたんだからね」
「わ、分かってます」
 離されたら困るのはこちらの方なのだ。慌てて頷くと、アルは私の?をするりと撫でた。その動きにゾクリと背筋が震える。
「うん。分かってくれているのならいいんだ。僕の大事なリリ。今からは、ようやく二人きりの時間だよ。ヴィクターにも遠慮してもらったから、あとは二人でゆっくり過ごそうか?」
「え、あ、兄様……?」
 そういえば、さっきまで一緒にいたはずの兄の姿がいつの間にか消えていた。
 周りを見ても、兄らしき姿はない。
「ヴィクターは今から城の図書室に行くそうだよ。調べ物があるんだって。こんな時まで本当に熱心な男だよね」
「それが、兄様ですから」
 むしろ夜会に出席している方が兄らしくない。そう思っていると、アルは私に手を差し伸べながら言った。
「そういうわけで、正真正銘、僕たち二人きりの時間を楽しめるよ。まず始めに——そうだね、リリ、僕の愛しい婚約者。僕と踊っていただけますか?」
 ふわりと笑みを浮かべるアル。愛しいとその顔が語っていた。甘い蜂蜜をトロトロと落とし続けているような表情にどうしようもなく胸がときめく。
「……はい」
 アルの手に、己の手を乗せる。
 アルのエスコートでダンスホールへ進んでいく。
 音楽に合わせて身体を動かす。ゆったりとした曲調なので、小声で会話しながらでも十分に踊ることができた。
「ね、今日のドレス。ずっと思っていたんだけど、とてもよく似合っているよ。君の目の色と同じだね」
 踊りながらアルが、ドレスに視線を向けてくる。
 気に入ってくれるといいな、目を留めてくれるといいなと思っていたこともあり、彼が褒めてくれたことが嬉しくて仕方なかった。
 ——やったわ、ロッテ。さすがよ。
 心の中でメイドを褒め称える。
 緑色のドレスなど殆ど着たことがなかったし、好きでもなかったのだが、アルが褒めてくれたことで、大好きになった。打算的で申し訳ないが、今度から積極的に緑を着ようと思う。
「ありがとうございます。その……メイドが優秀でして。最近は、そのメイドにばかり任せています」
「ああ、そういえば、以前聞いた時もそんなことを言っていたね」
「覚えていて下さったんですか?」
 アルにメイドの話をしたのは、彼から婚約のブローチをもらった時だ。そんな時のことまでまさか覚えてもらえているとは思わず驚くと、アルは「当たり前だよ」と優しく笑った。
「僕が君とした会話を忘れるはずないでしょう。君のことならなんでも知りたいって思ってるのに」
 それはこちらの台詞だ。
 アルのことをもっと知りたい。常にそう思っている。
「君が好きなドレスっていうのは、初めて会った時に着ていたようなものだよね? 確か、そう言ってたと思うけど」
「……はい」
 可愛いのは可愛いけれど、ド派手な赤いドレスは、今ではなかなか手が出せない。似合う自信はあるが、酷く悪目立ちするのだ。昔の私なら、それを当然と認識していたけれども、今の私は、恥ずかしくて勘弁して欲しいと思ってしまう。
「どうにも派手なデザインに目が行きがちでして。私の趣味で選ぶと、大抵碌なことになりません。
ですから、メイドに選んでもらいながら、少しずつ修正しているんです」
「修正?」
「はい。アルも、今着ているようなドレスに変えた方がよいとおっしゃって下さったでしょう? 悪役令嬢のイメージから離れたいのならって」
 アルの動きに合わせ、くるりと一回転する。
 柔らかな素材でできたドレスの裾がヒラヒラと舞った。光の当たり方で色が変わって目に楽しい。
「ああ、僕が言ったから気にしてくれているんだね。でも、それならもういいんじゃないかな? だって、君はもう悪役令嬢ではないんでしょう? イメージを気にする必要はなくなったと思うんだけど。君は何を着ても可愛いんだし、無理に自分を変えるくらいなら、前の君の格好でも構わないと思うよ」
「そう、ですか?」
 そんな風に考えたことなかった。
 だけど——。
「今の格好の方が、アルはお好きですよね?」
「え?」
 身体が密着した体勢になったタイミングで尋ねると、アルは目を瞬かせた。
「え、いや、それは……」
「私、アルに喜んでもらいたいんです。アルに可愛いって、好きだって言っていただけるのが何より嬉しい。だから無理なんてしていません。私は、私のために自分を変えたいと思っているのですから」
 他人から見れば、それは自分がないと思うような行動なのかもしれない。だけど私は真剣だった。
 どうせドレスを着るのなら、アルが可愛いと思ってくれるものを選びたい。彼が私を見て、眩しげに目を眇めてくれる瞬間、私はこれを着て良かったと思うのだから。
 私の言葉を聞いたアルが、私を見つめ、蕩けるような顔をした。
「——ああもう、可愛いな、リリ。大好きだよ」
「っ! アル」
 ダンスの動き。彼に引き寄せられたタイミングでそう囁かれ、顔が赤くなった。皆、それぞれのダンスに夢中で、私たちの小声での会話など誰も聞いてはいないだろうし、私の顔が赤くなっていることにも気づかれないだろうが、それでも恥ずかしく感じてしまう。
 私が赤くなったのを見て、アルが幸せそうな笑みを浮かべる。
「……参ったな。まさかそんなことを言ってくれるとは思わなかったから吃驚した。でも、すごく嬉しいと思うよ」
「アル……」
「あ、そうだ。それなら僕も君が好きな格好をしてみようかな? リリ、何かリクエストはある?」
「え……」
 突然の提案に、思わずステップを踏み間違えそうになってしまった。
 ——アルが? 私の好みの格好をしてくれる?
 なんとか体勢を整え直しながらアルを見つめる。彼は甘く私を見つめ返してきた。
「君と同じ努力を僕もしてみようかと思うんだよ。僕も、君に好かれたいし、格好良いって思ってもらいたいからね」
「えっ? で、でも……アルはずっと素敵だし……その、好みと言われても」
 困ってしまう。
 好みと言うのなら、アルそのものが私の好みなのだ。その彼に、どんな格好をして欲しいと聞かれても何でも構わないとしか答えられない。
 だって、本当にどんなアルも素敵だと思うから。
 そういうことをたどたどしくではあるが説明すると、彼は「残念」と呟いた。
「なんだ。せっかくもっとリリに僕のことを好きになってもらおうと思ったのに」
「も、もう十分好きです……!」
 これ以上、なんて、色々な意味で耐えきれなくて私が死んでしまう。
 ようやくダンスが終わる。
 アルとの話に夢中で、最後のあたりは殆ど無意識で踊っていたような気がする。
 何カ所かミスしそうになったし、アルにはかなり動揺させられた。それが周りの者たちに妙な風に見えていなければよいなと思いながら、私は自分が着ているドレスを見下ろした。
 美しいドレス。私のメイドのロッテが選んでくれた、アルの好みに合ったドレスだ。
 今までは、ロッテに丸投げしてきた。彼女の審美眼は確かなものだし、実際、一度もドレス選びを間違えたことがなかったからだ。
 それで満足してきたけれど。
 ——そろそろ、自分でドレスを選んでみてもいいかもしれない。
 ふと、思った。
 大分、私の好みも変わってきたはずだ。自分が選んでも失敗は少ないはず。それなら、頑張ってみてもよいのではないだろうか。だってアルに、褒めてもらいたいから。
 ——今度ロッテに相談してみよう。
 自分で選んでみると言ってみよう。
 最初は失敗するかもしれないけれど、その時は、メイドに修正してもらえばいいのだから、試すくらいは始めてもいいはずだ。
「リリ、バルコニーの方へ行こうか」
 ダンスフロアから下がり、近くの従者からワイングラスを受け取っていたアルが、私の名前を呼んだ。
 それに私は返事をし、彼と一緒にバルコニーで少し話をした後、遅くなる前に屋敷へと帰った。

◇◇◇

「こんにちは、リリ。今日はお誘いありがとう!」
「いらっしゃい、クロエ」
 夜会から一週間ほど経って、約束通りクロエが屋敷に遊びに来た。彼女は孤児院で会う時とは違い、盛装に近い格好で馬車を降りた。
 公爵家に行くということで、それに応じた格好をしてくれたのだろう。私もドレスアップして彼女を出迎えた。
 互いに社交界デビューを果たした身。これは最低限のマナーだ。
 淡いピンク色のドレスを着たクロエはとても可愛らしい。彼女は顔立ちも優しいから、ふんわりとした雰囲気と相まって、女性である私から見ても、庇護欲をそそられる。
 キツい顔立ちをした私とは正反対だ。
 私もクロエほどではないが、それなりに可愛らしいドレスを着ていた。リボンの使い方が気に入ったオレンジ色のドレスは自分で納得して選んだものだったが、クロエと比べると月とすっぽん。
 こうしてドレスを着ると、その違いが浮き彫りになり、なかなかに切ない気持ちになった。
「大丈夫ですよ。お嬢様も、ちゃんと似合っていらっしゃいますから」
「……まるで人の心を読んだかのようなタイミングで慰めないでちょうだい。驚くから」
 何とも複雑な気持ちになっていると、私に付き従っていたルークが後ろから励ましてきた。
 似合っていると言ってくれたのは嬉しいが、自分の悩みや考えまで見透かされているような気がして時折彼には本当に驚かされてしまう。今も、ばっちりのタイミングすぎて、嬉しいより先に、戸惑いが勝ってしまった。
 ついつい胡散臭げな目を向けてしまう。
「ねえ、時折思うんだけど、ルークって読心の魔法が使えるのではなくて?」
「………………まさか」
 冗談で言ったのに、妙に間が空いた。それが気になり、顔を引き攣らせてしまう。
「ねえ、どうして今、ちょっと考えたの。そこは即座に否定するところでしょう。正直に言いなさいよ」
「ええ? 何を言ってるんです。私はすぐに答えましたよ。お嬢様の気のせいではありませんか?」
「……」
 にこやかに笑うルークをじとっと睨む。
 読心の魔法とは、文字通り、対象の心を読む非常に高度な術だ。できる人間もいるらしいが、それはごく限られた一部の人たちだけ。できる方がおかしいという認識で間違っていない。
 だけどルークならできても不思議ではないと思ってしまう。何かにつけ、無駄に優秀な男なのだ。
 私の疑わしげな視線を受け、ルークが苦笑する。
「私が悪かったですから、本気で疑わないで下さい。できませんよ。大体私が得意なのは攻撃魔法だってお嬢様もご存じだと思いますけど?」
「そりゃあそうだけど」
「そこまで多方面に才能はありませんからご安心下さい」
「……ま、そうよね」
 そんなことができたら、今頃ルークは城にある魔法専門機関に間違いなく引き抜かれている。
 特別な才能を持つ者だけが集まる魔法専門機関、通称『あなぐら』には奇人、変人しか在籍していないということでも有名だった。
 碌に眠りも食べもせず、ひたすらに研究を続ける者。
 同じ人間を実験道具にしか見ていない、倫理観の欠如した者。
 能力は高いが、他人とコミュニケーションを取ることを著しく苦手とする者。
 文字通り精神を病んでしまっている者。
 この通り、所属するほぼ全員が、何らかの問題を抱えている魔の巣窟だ。
 こんな人間たちの集まりがあること自体が信じられないのだが、全員が全員、『魔法』に関する能力については文句のつけようのないレベルらしい。いや、むしろ彼ら以上に上手く魔法を操れる者などいないのではないかと言われるほど。
 そういうわけで、毎年将来有望な新人がその能力を更に開花させることを期待され、『あなぐら』に配属されるのだが、殆どは耐えられず逃げ帰るし、何人かは精神的に壊れる。正気で『あなぐら』生活はできないらしい。
 まともであればあるほど、脱落が早いという話だ。どうしてそんな場所に、未来ある若者を投げ込むのか、不思議でたまらないのだが、中には『あなぐら』に馴染み、見事に新たな変人となる者もいるので、配属させる方は、運が良ければ……くらいの気持ちなのかもしれない。本当にやめてもらいたい。
 そしてこれは噂なのだが、所長が一番の変人らしい……何が変なのかまでは知らないが、将来アルと結婚することになったとしても、積極的に会いたいとは思えないナンバーワンの人物であることは間違いない。そしてそんな恐ろしい場所に私のルークを連れて行かれたいとは思わなかった。
 せっかく、ルークとの関係性も変わり、良い関係が築けてきた矢先だというのに、大事な執事を壊されてはたまらない。
「あなたは、私のだもの。誰にもあげたりしないわ」
 たとえ優秀さが認められての『あなぐら』配属だろうとも、私のものを勝手に連れて行かれては困る。
 そんな気持ちを込めて言うと、ルークは嬉しそうに肯定した。
「そうですよ。私はお嬢様のものですから。拾った限りは、最後まで責任を取っていただかなくてはいけませんからね。飽きたからと簡単に余所にやられては困るんです」
「そんなことしないわ」
「ええ、お嬢様のお世話が私以外の者にできるとも思えませんしね。お嬢様は寝起きの機嫌は最悪に悪いし、朝のお茶が気に入らないと不機嫌になるしで、慣れている私でないとお仕えするのは本当に大変ですから」
「……」
 朝が弱い自覚はあったので、言い返せない。お茶に関しては、最近は特に文句は言っていないはずだ。……ルークが淹れてくれるお茶がいつも私の気分にドンピシャで気にする必要がないからという理由もあるけど。
「……ルークがいるからいいじゃない」
 ボソッと呟くと、ルークからは笑いを含んだ言葉が返ってきた。
「はい。そうですね。それでは今後ともどうぞよろしくお願い致します」
「当たり前だわ。ルークにはずっと私の側にいてもらわなくちゃ……って、クロエ? どうしたの?」
 ふと、クロエが笑顔でこちらを見ていることに気づいた。
 何をしているのかと尋ねると、彼女は目を輝かせながら言った。
「ううん。二人、本当に仲が良いんだなって。遠慮のない二人のやり取りが素敵だなと思っていたの。お互いを信頼しているのが伝わってくるもの。専属執事ってやっぱり違うのね」
「……」
 ルークと二人揃って黙り込んでしまった。
 何の含みもない、純粋な言葉が逆に辛いということもあるのだ。
「……ルーク」
 キラキラとした目でこちらを見るクロエに耐えきれず、私はルークに助けを求めた。だが、無情にもルークは首を横に振る。
「何をおっしゃっているんですか。クロエはお嬢様の友人でしょう? お嬢様が対応して下さい」
「それはこっちの台詞よ。クロエは元々あなたの友人でしょう? 許すから、あなたがなんとかしなさいよ」
 元々私にクロエを紹介してくれたのはルークだ。
 だが、ルークは頷いてはくれなかった。
「嫌ですよ。お嬢様と違って、クロエは純真ですから、なんというか逆に恥ずかしくなるんです」
「だから私も嫌だって言ってるのよ……ん? 私と違ってってどういう意味よ!」
「そのままですけど。何かおかしかったですか?」
 心底分からないという顔をするルークが憎たらしい。
「おかしいところしかないじゃない! ああもう、いいからさっさとクロエと話してきて」
「お嬢様のお客様なのですから、お嬢様がどうぞ」
「……なんなの、この執事。全然主人の言うことを聞いてくれないんだけど」
「私ほど一途な執事もいないと思いますよ」
「何、さらっと?吐いてるの。一途って言葉、一度辞書で引いてみなさいよ」
 真顔で答えると、ずっと近くで話を聞いていたクロエが今度は声に出して笑った。
 その笑い声で不毛なやり取りだったということに気づき、私もルークも黙り込む。
 気を取り直すように、意味もなく咳払いをした。
「……ま、いいわ。脱線したわね。クロエ。屋敷を案内するから、どうぞ、中に入ってちょうだい」



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